大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和32年(ラ)48号 決定

抗告人 山口やゑ(仮名)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告理由の要旨は「抗告人は昭和十二年頃から吉井次郎と内縁関係を結び昭和十三年九月○○日その間に男信夫が出生し次郎は昭和二十四年二月○○日死亡するまでほとんど抗告人方に同居し、抗告人母子の生活費を負担し、同人には別居中の正妻はあつたが、抗告人と事実上の夫婦生活を送つて来た。右次第であるから、抗告人は内縁関係ができてから次郎の姓吉井を称し、信夫も小中学校、高等学校も吉井信夫として通し、本人も吉井姓であると信じており、此度更に上級学校に入学を許されたが、今更戸籍上の山口姓を称えしむるに忍びず、これこそ戸籍上の氏を事実上の姓通りに改めるに足るやむを得ない事由であると信じ、戸籍の筆頭者たる抗告人よりその許可を申請したところ、抗告人と次郎の関係を妾関係と見て抗告人の申請を却下した原審判は失当であるからそれを取消し、抗告人申請通りの改氏の許可の決定を求めるため本抗告に及んだ。」をいうにあるが、

原審判にもある通り氏は人の同一姓や親族関係等をあらわすに社会生活上重要な役割を果しているものであるから濫りに変更を許すべきでないことは、戸籍法第一〇七条が、「名」においてはその変更を正当な事由にかからしめたにかかわらず、「氏」においてはやむを得ない事由あるときに限つたことからうかがえるところであつて、仮に抗告人主張のような事情があるにしてもそれは未だ、抗告人の氏を変更するに足るやむを得ない事由とは解されないから、結局本件許可の申請を却下した原審判は相当であり、本件抗告は理由がないからこれを棄却すべきものとし、主文の通り決定する。

(裁判長判事 大野美稲 判事 石井末一 判事 喜多勝)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例